『萬年青図譜』
明治のビッグネームによる格式高い内容
社団法人 日本おもと協会会長 文 今泉 敬
わが国の伝統園芸の歴史や文献江戸・明治期の文献などについては、伝統園芸の雄・おもとに関する書を取り上げました。おもとに関する代表的な文献といえば、明治十八年三月に出版された篠常五郎編集の『萬年青図譜』上・下二巻を挙げることができます。
編者の篠常五郎(1860~1917年)は東京・根岸にあって、おもとの名品『根岸の松』作出で知られる「篠肴舎」の当主でした。父祖の代から引き継いだ3000坪にも及ぶ広大な敷地で、旧大名をはじめ当代一流の人々を顧客に迎え、おもとの巨商としてゆるぎない地位を確立し、活躍した人物です。
『萬年青図譜』は扉を開くと、維新の元勲・三条実美と東宮侍書・長三洲の題字があり、次いで静岡県令・関口隆吉と報知新聞主筆・栗本鋤雲が序文を寄せています。まさに当時の政府高官や碩学という、多彩な顔ぶれです。さらに品種名についても、嚴谷一六、長三洲、山岡鉄舟が分担して揮毫するという、これまた格式の高い編集内容となっています。なお本文の図版は、あざやかな多色刷りで、当時の最新技術を駆使した印刷になっています。
今回、『萬年青図譜』の、とくに三条実美公の題字と栗本鋤雲翁の序文に焦点を当てることにしました。これらの解読を通して、いくぶんでもおもとに対する新しい認識を持っていただければ幸いです。
栗元瀬兵衛鯤 万年青の歴史より
萬年青図譜の序文を執筆した人
始め幕府の医官 後に士籍に列して箱館奉行、軍艦奉行、外国奉行、勘定奉行へ累進し、歴任され、明治維新後は郵便報知新聞の主筆を務める 萬年青図譜の序文を執筆
「根岸松」題字は長三州書
富士の雪 根岸の松 萬年青図譜
入門品種から高級品まで楽しむ方が大勢見えます。
おもと 富士の雪(ふじのゆき)
萬年青図譜より 篠常五郎 著
江戸時代からの、素直な姿のおもと。このおもとの魅力は、その姿にあります。
美しい立ち姿に、雪にみたてた白い虎柄を現します。このおもとに魅了された趣味者はいつの時代も多く、それだけに多くの系統があります。そしてまた、淘汰され、良いものが残っていきます。
『根岸の松』『富士の雪』その他に、『永島』『日月星』『残雪』などが載っています。
明治26年5月、明治天皇がお求めになったおもと、
『於多福(おたふく)』『折熨斗縞』の2品をお預かりして
管理したと伝えられています。
題字
三条実美公(1837~1891年)は、幕末から明治前半の著名な大政治家です。公卿出身で、右大臣・太政大臣・内閣総理大臣などを歴任し、長く明治政府の最高位にあった人です。
題字は、気品のあるおだやかな書「保萬年」すなわち「萬年を保つ」と訓読できます。また、書頭の関防印は「遷善」。後段の落款は、白抜きの字が
「藤實美印」で、藤の文字は名門・藤原氏の出を意味します。その下の朱字は「梨堂翰墨」で、梨堂は実美公の号になります。
http://www.houmeien.co.jp/newpageomoto254.htm
また、『萬年青銘鑑』には題字をはじめオモトの寸描と和歌、漢詩など・当時の貴顕や著名な書家文人に揮毫してもらい・他に類のない文化の香りの濃い立派なものオモトそのものの価値まで高めました。
明治三十三年、『増訂萬年青圏譜』を出しオモトの認識を高めました。