おもと美人
江戸時代から万年青と美人はよく合います。おもと美人画を見たことのある人も多いでしょう。
華のある獅子を、短冊家の吉祥鉢に植えて
万年青の花言葉が、【長寿】と【永遠の繁栄】なので、長寿の祝い、結婚式、新築、引越し、お正月と祝い事に用いられます。
天福の霊草として、いけばなでは使われています。
ただ一筋に万年青をはぐくむ
この万年青が折熨斗芸の元になっているおもとです。中型ですが、きちんと折熨斗の芸が見えると思います。
古くは、天皇陛下お買い上げの万年青として、折熨斗縞(折熨斗に縞の入ったもの)とお多福が記録が残っており、由緒あるおもとです。この折熨斗も今の現役で実親として使えるだけでなく、価格はそこまでではないですが、今では非常に稀少な江戸万年青としても人気です。折熨斗芸は雅糸龍と比べて、繊細なイメージがあります。折熨斗芸がメインの品種も、数がそんなにあるわけではないので、集めていくと面白いでしょう。 熨斗芸を見せる品種 『翠峰』 『幽谷錦』 『天人冠 』
力和も熨斗芸も含めた多彩な芸をみせます。
熨斗葉(のしば) 品種 幽谷錦(ゆうこくにしき)
葉の縁が元から葉先にかけて祝儀に使う折熨斗のような形の葉を言う。熨斗芸とも言う。
熨斗葉(のしば) 品種 幽谷錦(ゆうこくにしき)
葉の両側の縁が熨斗を折ったように折れているもの。熨斗芸とも言う。
例えば、出雲錦の熨斗葉と、殿様の熨斗葉では感じが全く違います。
それぞれの品種らしさを引き出してあげると、よりおもと作りが楽しくなっていくと思います。
読み
ぐんじゃく
意味
葉の先端にできるくちばし状の盛り上がり。
基本は純白ですが弱く触ったり強光に当てると茶色くなる。
群雀(ぐんじゃく) 品種 玉雀(たますずめ)
葉の先端に白く雀のくちばし状のように見える葉。
成長すると小さくなります。
これが雀のくちばしのようだ、ということで雀と呼ばれています。
また、葉にいくつもできることから、この系統を群雀系統といいます。
白い雀はだんだんと茶色くなっていきます。(陽を摂りすぎると)
雀の白いところにティッシュなどを巻くことで正月にきれいで、大きな雀を見ることができます。
雀芸(すずめげい)
写真の、葉の先にぷっくりとふくらんだ白い玉のようなもの、これが雀芸です。これが雀のくちばしのようだ、ということで雀と呼ばれています。また、葉にいくつもできることから、この系統を群雀系統といいます。
(雀が群れになって集まっているから^^)
錦王雀の図、豊年雀、群千鳥、瑞雲海、白雀、玉雀、富久雀、錦孔雀など様々あります。(薄葉になります)群雀系統は、とても丈夫で、かつ、良く殖えるので初心者の方には最適な品種です。また、手のひらに乗るサイズのおもとなので、女性や引越しおもとにも人気があります。
この雀、芽だし(芽が伸びている最初の頃)のころは真っ白なのですが、日光を浴びると自然に茶色くなっていきます。昔、初代が雀を大変愛して、人気運動をしていたころは、その雀の部分に昼間ティッシュをまいて夜とって、という手間のかかることをしていました。そうするととても綺麗な雀を見ながら正月を迎えれたからです。また、値段も今では考えられない値段でした。
裏雅糸竜(うらがしりゅう) 品種 金龍閣(きんりゅうかく)
葉裏に雅糸竜を見せる葉。多くの人がびっくりしてしまうこの芸。
葉の裏側の芸は、この裏雅糸龍や裏玉竜、また、逆鉾(さかほこ)も葉の裏に芸がでます。これら、葉の裏の芸が特徴の品種を大きくまとめて、裏芸品種と呼んでいます。万年青の芸は表に現れるものという常識を打ち破ったおもとたちです。
特にこの金龍閣は芸が強く、裏雅糸龍の代表品種です。強すぎて、葉の表がほとんど、もしくは、全く見えません。芸の力強さが特徴のこの品種は、裏玉竜も現し、迫力満点です。裏玉竜は雅糸龍の中にみえる、こぶのようなものです。もちろん、病気ではありません。
万年青の芸の奥行きの深さを感じられるおもと。非常に珍しいですが、ぜひ楽しんでください。
裏雅糸竜(うらがしりゅう) 品種 金龍閣
葉裏に雅糸竜(甲竜が筋状にいくつも現われる葉)を見せる葉。
ついついおもとが可愛いので過保護にしがちですが、おもとは実は非常に寒さに強い植物です。
おもとを厳しく育てている方は、このように10センチ以上の雪にずっと埋まっていても大丈夫だとしっているでしょう。あまり寒さが厳しいと綺麗には育ちませんが、その分強く育ちます。昔、ハワイで育てれば年中育つので倍の速さでおもとが大きくなるといって育てた方がいましたが、なぜだか2-3年目くらいから調子が悪く、うまくいきませんでした。おもとは冬の寒さを必要としているのかもしれません。
アメリカでは、-25℃の環境でも元気に育っています。温かいところに育てているおもとをいきなり-25℃の環境にしてはさすがにおもとも参ってしまいますが、ずっと外で管理していれば、おもとも環境に慣れて、寒さ、暑さに適応します。
万年青が万年、青々と常緑を保つのも、冬の寒さに強いからです。多くの植物が秋から冬にかけ葉を落とすのに対し、万年青は冬こそ青々と元気になります。
古代の日本人は寒さ厳しい冬に、青々とした常緑を保つ姿に神性をみて、生花では正月、祝いの花に、徳川家康公は引越しの縁起物に、万年青を使いました。
万年青の名もそこから来ています。
万年青が縁起物として重宝されるのと、耐寒性は切っても切れない間柄だったんですね。
常緑で耐寒性に優れるおもと。是非冬のお庭や野山でおもとを楽しんでみてください。
徳川家康公が最後に造らせた久能山東照宮 おもと彫刻
おもとは中国では4000年前から、日本でも少なくとも1000年前から家庭の医学の薬草として、日本人になくてはならないものでした。
古代の日本人にとって、おもとの耐寒性は特に目立った特徴で、寒さの厳しい冬でも常緑で万年、青々と緑を保つおもとは、万年青と書かれるようになりました。
万年青の常緑という特徴から、長寿や、永遠に続く繁栄といった花言葉に繋がり、長寿を祝い、結婚やお正月などお祝いにぴったりの植物になりました。
それに加えて、薬草という側面から、引っ越しの際、新居にもっていく風習が古くからあり、徳川家康公も江戸城入城の際、真っ先に万年青を入れたという故事にも伝えられます。
植物のありのままを表現するいけばなでも、そんな万年青の特徴を反映して、お正月、結婚、長寿の祝いに飾られます。
おもとは、これらを全部ひっくるめて、縁起の良い植物、幸運の植物と呼ばれています。
その歴史は600年ともいわれるおもとの生花。平安時代より古くから日本人は花や植物を愛でる文化がありましたが、先祖や仏様神様へのお供えとして成立していきました。特におもとや松のような常緑の植物に神が宿ると考えられ、神の依り代として、常緑の植物が使われました。中でも、京都 六角堂の池坊専慶の花が評判となり、その形、器の使い方など、生花としての型ができてきます。
今では、日本のフラワーアレンジメントととして世界中で習う人も多いです。おもとと同じで、日本独特の価値観で美意識がつくられていて、西洋の価値観の中にない美しさが、こころを打つようです。このおもとの生花は池坊の七種花伝の一つに数えられる、池坊を代表する生花の一つです。
古くから、天福の霊草として庭にも植えられているおもとは、その縁起の良さから、正月を祝う花、結婚を祝う花、長寿を祝う花、と、祝い事に使われてきました。
江戸時代から大象観(たいぞうかん)を使い、濃紺、広く豪快な葉振りを生かしたダイナミックな形を作っていきます。
葉10枚、実1つを、立葉、露受け葉、前葉、流葉と自然の中にあるように立てていき、年中青く枯れることがなく、子々孫々まで繁栄することをおもとを通じて願います。常緑で日本に自生するおもとは、こまめに水を替えれば、正月前から4か月以上もちます。万福の霊草として、日本の文化とともに次世代に伝えていきたいおもとの生花。