おもとの交配

おもとの品種改良

おもとの品種改良の歴史は古く江戸時代にはすでに品種改良が進められ現在でもその数を増やしております、ここでは交配の手法を動画を交えて説明します。

交配の季節

愛知県では毎年5月から6月の間に花が咲き交配の適期となります。
開花時期の調整

品種交配の道具

用意したい物
・ホセ(交配用の竹串) 自分に合うものなら何でもいい
・ホセの刃先を調整する切り出しナイフ
ラベルとそれに記載する鉛筆
・机等と椅子(おもとの花穂が目線の高さに来ること)

あると便利
・黒い板とカッターナイフ(貴重な花粉の場合小さく切り分けて使用)
・蚊取り線香等蚊の対策
・虫眼鏡

ホセ(交配用の竹串)雄しべを切り取るためにナイフのように鋭く切り出した物

品種交配の法則

・柄が遺伝するのは多分メス木のみ ※遺伝しない柄もあります。
・葉芸等の形質はオス木の遺伝が出やすい
・千代田斑狙いは千代田系の親同士で交配する(斑が出るのは低確率)
・図と覆輪は基本的に遺伝しない。

※詳しい説明はこちら

部位名称解説

下の写真解説の通り真ん中がめしべ(受粉適期で蜜が出ている)
めしべを囲む黄色い6個の雄しべ(やくが開き花粉が見えている)
更にその周りのクリーム色の6個の花弁までで一つの花でそれがたくさん集まって咲きます。

 

おもとの花の解説
花の解説

花粉採取

花粉を採取する際は花の上を左手で押さえ右手のホセ(竹串)で雄しべを切り取ります。
雄しべを取った花に受粉もする場合雌しべを傷つけないのは勿論花粉がかからないように丁寧に切り取ります。
花粉も適期があり花粉袋(やく)が自然に裂けて花粉が露出している頃が交配に最適ですのでよく確認して花粉の出ているものを選んで使いましょう。

切り取る際の切断面の水分でホセ(竹串)に雄しべが付きゆっくりさかさまにしても落ちません、よく落ちてしまう場合はホセをよく水につけ布巾で水分を取ってから試す。

受粉

受粉の適期になると雌しべの頭に「蜜」が出てきますので上で採取した雄しべを蜜の力で貼り付けます。
交配の掛け合わせをラベルに記録しましょう。メス×オスの順で書き入れます。
(播種の際に交配ラベルを立てどの交配がどのような結果になるか把握して翌年の交配を計画しましょう。)

※採取した雄しべを濡れた雌しべに載せますが その際雄しべの先のやくが裂け花粉が見えている方を雌しべに接触させてください。
花粉が黄色(白い品種もあり)で粉っぽく、雄しべの裏(やくの裏や花糸)は黄緑色です、動画の2回目の交配ではやくの向きが斜めに付き修正しています。

開花期間の管理

●交配作業期間は交配した花粉やめしべの蜜を潅水の水で洗い流さないように注意してください、可能ならバケツに水を張り根元まで水につけると掛けムラもなく空気も完全に入れ替わるのでお勧めします。
●上と同じ理由で降雨も厳禁です、雨除けや庇の下での管理等の工夫が必要です。
●虫により予定外の交配を排除したい場合室内に取り込むか茶封筒をかぶせる等保護や粘着シート(ハエ取り紙)等を使用される方も。
ナメクジが活発になりますので誘因系の毒性の低い農薬があるので撒いてもよいでしょう。

 

おもとの花芽 5月10日 花穂の色の変わり具合、雄しべの開き具合を見て交配の適期を見ます。この木はまだ早い状態

 

 

 

受精

受粉の後上手く行けば数時間で受精が完了するようです、わかりやすい品種では受粉していない隣の花と比べめしべの蜜が数時間かけて乾いていくのが観察されます。
半日~翌日に結果を観察してみて明らかに蜜が引かない場合は花粉が雌しべに接触しているか確認してください、花粉が未熟等で不全であったりする場合は良い成熟した花粉をもう一度柱頭に乗せてみてください。

数日すると花弁がしぼみめしべの基部が膨らみ始め年末になると寒さで真っ赤に色づきます。

採種

赤く色が付けば発芽は可能になります、また野鳥などに食べられる恐れがありますので房に封筒をかぶせたり早めに採種される方もおられます。
幣園では12月~1月に茎ごと切り取り掛け合わせを書いたラベルと共に茶封筒に入れ段ボールにまとめて暖房の絶対に影響のない室内にて保存しております。
密閉はカビの恐れがあり暖房は季節の誤認を避け無駄な養分を使わないため。

播種

3〜4月にタネ播きをして、6月~7月になると芽が伸び てくる。

実際の播種・種まきについては以下を参照してください。

–万年青の種まきの実際

交配風景

 

ポイント
・適当な台で花穂が目線の高さに来るようにすると作業が楽です。
・光が後ろから刺すようにするとめしべの蜜の具合が良く見えます。

動画解説【交配してひと月後の実付き】

実付きのよいもの、悪いもの 最初の交配から2週間からひと月以上たち、交配がほぼ終わった時の花芽の様子。【万年青の豊明園】【Crossing and Fruiting a month later】

 

 

おもとの花

花芽のいろいろ

おもとを丈夫にするために

動画解説【万年青の花芽を落とす時は?落とし方は?】

万年青の交配で使い終わった♂木や、若すぎて実があまりならない若花を落とします。交配・受粉に失敗した花も落とします。【万年青の豊明園】【How to cut the OMOTO’s flower】

 

 

上級編

一歩踏み込んだ説明を、、、

おしべの説明

肉眼では確認しにくいおしべの拡大写真を掲載します。
左が雄しべの「やく」(花粉袋)が閉じた受精できない状態の雄しべで
右が「やく」の完全に開いた雄しべです。

おもとの雄しべの紹介
おもとの雄しべ

左の状態ではめしべに付けたとしてもやくが自然に開くまで受粉できませんので「やく」が完全に開くのを確認してから交配するか花粉自体が熟成しているならやくをほじってめしべに付けることでも交配は可能ですのでめしべのぬれ状態だけではなく雄しべの状態もよく確認して交配をされると歩留まりがいい。

右側の雄しべに無数についている粒が花粉で健康な花粉であれば一粒でも付けば交配します。
逆に予想外の花粉が竹串などについていればそちらが先に交配してしまうことがありますので竹串等交配道具は交配ごとにふき取って前の交配の花粉が付かないようにしましょう。

〇いい品種の花粉を効率よく使うには

上の写真のように雄しべには無数の花粉が入っておりますので取り出した雄しべを黒等のゴム板などの上で切り刻みその一片を雌しべに付けると沢山の花に受粉が可能です。

花粉の冷凍保存

時期が合わないこともあるので良い品種の花粉を冷凍保存して翌年使う方もおられます。
小さなケースやチャック袋等に品種・採取年度等を書き入れ温度変化を抑えるために発泡スチロールや保冷袋にまとめ出来るだけ低温で保管しましょう。
冷凍・解凍時は一度冷蔵庫を経由し急激に変化させないように注意しましょう。

除雄

良いオス木を用意しても交配の際にメス木自身の花粉で自家交配になってしまっては台無しです、特に雄しべの「やく」の開くタイミングや形状により自家受粉しやすいメス木もありますのでそんな時はやくが開く前に雄しべをすべて切り去って除雄すると安心です。

※除雄の際に花弁を傷つけても大きな問題ありませんがめしべやその基部を痛めないように特に注意をしてください。

開花時期の調整

確実に交配させたい組み合わせがある場合、開花前に花穂の早いおもとを棚下の日陰等涼しいところに置いて遅い物を暖かく日の当たる場所に置き開花時期をそろえましょう。
暖かくするために小型のビニール温室を用意したりおもとの鉢に支柱を数本差し大きなビニール袋等をかけても良いでしょう。
小さな温室ですと日中すぐに高温になりますので最高最低温度計等で監視しビニールの上端を適宜開閉して30℃は超えないように管理しましょう。

おもとの交配  おもとは大福
交配の時期、花穂を伸ばすことが重要です。伸ばすには湿度管理が大事です。花穂が伸びる前から棚下に置きます(地面)又灌水の仕方をバケツにつけるなどして充分に水が行き届くようにします。これで花穂の進み具合が早くなります。
花穂の調整
早めに花を咲かせたい木は太陽光を余分にとっています。
花穂の伸びの良い木は日陰の涼しい場所に移動すれば花の咲きが遅くなります。(花穂の調節は1月ほど前よりおこなうこと)
一番大切なことは冬の間、寒さに合して丈夫に育てた木は花穂も元気で蜜の出も良いです。豊明園では冬、外で管理しています。岡崎の冬気温-5℃まで鉢の表面が少し凍るような状態が15日前後あります。雪にも2回前後被っています。

ホセ作り

基本的にとがった物であればどんなものでも交配は可能です。
竹を削りだしたものが多く使われるのでその作り方を簡単に紹介します。

道具は文具屋などに売っている「切り出し」が便利です又は竹に負けない刃物
丸竹を割くなら竹に刃を当てて軽く金槌で刃物の背をたたくと竹が裂けます。
あまりに細かったり丸かったりすると持ちにくいです。


竹の側面は垂直に刃を立てて奥に向け軽く削るとささくれがきれいになります。


刃先の形状

刃先は好みで整えてください、写真は両刃で切り取り先が雄しべのサイズより少し細めになるように調整してあります。
慣れてくると、変則ですが突きで雄しべを取ることもありますしやくの中をすくい上げ花粉だけ取り出すこともします。


おもとの雄しべを乗せた状態の刃先

形も人それぞれなのでご自身に合った形を探してみるのも良いでしょう。

交配時の水やり

実親の水遣り

実親は花穂に水が当たらないように1鉢づつバケツの中へ、首元の位置まで沈め鉢全体を付けます。交配をしている木だけおこなっています。充分に水が行き届くので雌しべの蜜の出が良くなります。
水の通りが良くなりおもとも元気になります。1度浸けると4日~5日はかわきません。交配が終わり3日たてば上からの灌水に変わります。

品種交配の法則

・柄が遺伝するのは多分メス木のみ ※遺伝しない柄もあります。
・葉芸等の形質はオス木の遺伝が出やすい
・千代田斑狙いは千代田系の親同士で交配する(斑が出るのは低確率)
・図と覆輪は基本的に遺伝しない。

縞柄

縞柄は縞柄の入ったメス親を使えば確実に遺伝します。子供の縞の色合いはばらけますので縞柄の実親でも青が多い縞柄のが光合成が多く出来るので弱り難く上物とされています。
おもとの柄は多様で葉っぱの表面のみ縞柄で裏側は他の色合いな物は遺伝上の「縞柄」ではなく遺伝もしにくい又しない物も稀にあります、判別が難しい物もある。

おもとの交配  おもとは大車と錦麒麟
外気温17℃、湿度も高く良く蜜が出ていました。夜間窓を閉めて外気温より少し高くして管理すると蜜の出がよくなります。
真ん中の白い薬はオルトランとタチガレンエース混合の薬

他の柄

矢筈柄・高隈斑・曙斑・白斑等もメス木にて使用すれば遺伝する品種もありますが遺伝しない品種や自家交配や掛け合わせの相性があったり、遺伝しても柄を現すまでに数年掛かることもある。

おもとの交配 5月31日おもとは四海波と旭峰
外気温22℃、湿度も高く交配としては最適です。横の窓を閉めて外気温より少し高くして管理すると蜜の出がよくなります。
花穂は品種により色が違います。

千代田斑

千代田斑はとても複雑で幻想的な色合いの斑ですが交配成功率は低く1割も斑が入る子を出す親なら優秀といわれるほど交配の歩留まりが低いが魅力的な色合いに斑が入った時の希少性は随一。
千代田用の実親は基本的に青(緑色)で紺地(普通の青よりさらに深い色)の深いものが多い。

おもとの交配  千代田獅子を作る おもとは三春と初雪
このような青い獅子から千代田斑の獅子が生まれます

 

羅紗

羅紗は基本小さいので花が咲かず「羅紗を出しやすい実親」によって作出され歩留まりは1割を超えれば優秀といわれる。※羅紗の新生殿等は根気よく肥培すれば花の付く事もありそれらの花粉を使うことも有る。
羅紗の万年青は人気があるので羅紗を作出する実親の種類も沢山出回ってます。
羅紗は特に無数の品種がすでに作出・登録されているのでそれらを上回る品種を狙っていきたいがかなりの難易度である、同じ物で超えるのは難しいですが切り口を変えて今までにない珍しい芸や柄を発現させたい。

獅子

葉が丸まった形は他の植物には少なく古くから一定の固い人気がある。
縞柄や葉肉の厚いラシャ葉の物は良く出されているし多くの獅子は肥料多めでうまく育てると花が咲きそのまま交配できる、勿論獅子用の実親も出回っています。
羅紗獅子(羅紗だと巻きが甘くなるのでよく巻いたもの狙い)や逆に柄を良く見せるためにさらに良い柄や広葉や大型の獅子など狙っても面白いかも。

6月9日 獅子系統の交配も上手に出来実も膨らみ始め新芽も出てきました。

 

 

大葉

もとの交配
秋津島・凱旋・大錦

様々な柄があり奇麗で壮大な姿がおもとを知らない人にも見ごたえのある、特に九州の方で古くから固い人気がある。
大葉は花が咲くのでそのまま交配できますので専用の実親は少ない。
新しい柄や葉姿を狙って交配すると面白い。
また、大型で羅紗のような奇抜な「葉芸」を表すものがないのでそこを目指しても面白い。

5月31日 交配が終わり、実がついた大葉おもと

大葉の新品種を狙いました、めしべの青い部分が膨らんできてるので
実がついています。

 

これからの交配

折角新品種を作出するなら末永く愛培される品種を作りたいものです。
似た形質の品種を作っても目立たず人気も上がりにくい物ですので良いとされる交配を試すのもいいですが片親に他とは違った形質の万年青を入れてみてはいかがでしょうか。
図鑑などを見て今までにない物を作出するのにどの芸・柄を乗せると素晴らしいかを定めその形質の万年青を探して掛け合わせてみても一興かと思います。

実親として販売されているもの以外でも良い遺伝形質を見出したなら積極的に使っても問題ありません、似た品種を二番煎じで作るより今までにない新しい自由な発想の掛け合わせのが後世に残る品種を作れるカギになると思います。